今回の依頼は、打ち込み井戸工事です。
潅水用に井戸水を使用されたいとのことでした。
海岸から3kmほど離れた場所になります。
少し前に真西に1.5km離れた川沿いの場所へ施工した実績がありましたので、水は出るだろうと予想しました。
ただ、北東に4.5km離れた一級河川に近い位置では鉄分がとても多く、全く良いところは無かったので多少の心配はございました。
今回も吉日を選んで早朝には神社にて願掛けをして参りました。
5.5m打ち込んだ深度では砂の排出がとても多く、無くなる気配が無さそうなほどでしたので予定の11mをめざしました。
後で近隣住民の方に聞いたお話しですが、50mほど離れた場所に4mの深さの井戸があるそうですが、鉄分がとても多く、使い物にはならなかったらしく現在では使用していないとのことでした。
二本目を打ち終わり水汲みをしてみると、砂が少なく水量もとても豊富にありましたので、てっきり完成かと思いきや鉄分反応が強く出てしまいました。
潅水チューブで滴下させるとのお話しでしたので、数年でソブがチューブの穴に詰まってしまうトラブルに見舞われることが考えられます。
そこで、1m程抜き上げてみると鉄分反応がなくなり、比較的砂の排出も少なかったことから完成深度とさせて頂くことにしました。
抜き上げたことで若干、汲み上げ水量は減ってしまいましたが毎分120Lはありましたので使用に差し支えない範囲だと判断しました。
ところが、エンジンポンプで仕上げ水替え作業をしていると、水量の多い11m深度の帯水層からの地下水を引っ張ってきてしまったようで、僅かですが鉄分反応が出てしまうようになってしまいました。
その後8.5mまで汲み上げを行いながら少しずつ抜き上げてみると、鉄分反応は出なくなる一方、引き抜く毎に砂が細かくなり排出量も増え、逆に水量は減ってしまいました。
8.5mから更に抜き上げていくと、今度は粘土層があるらしく水量が激減してしまいました。
手押しポンプのハンドルもかなり重くなり、ケッチン反動がおきます。
打ち込み状況を観察しているときに7m~8m位の地点がとても柔らかかったので、おそらくこの深度に粘土層があったと思われます。
粘土層より上にしてしまって4m深度の鉄分を引っ張られるのも困りますので、8.5mの深度で止めて暫く汲み込んでみました。
エンジンポンプで連続揚水をしているときは砂が止まるのですが、一旦水の汲み上げを中断し再度汲み上げ始めると、直後にまとまった砂が排出されます。
エンジンポンプで出したり止めたり、手押しポンプでガチャガチャ煽ったりを半日ほどかけて井戸掃除を実施し、使用に耐えれるくらいの砂の量に減ってきたかな?と感じたところで試しにポンプを設置して汲み上げてみることにしました。
水は汲み上げる事ができているのですが、砂の量が電動ポンプの許容範囲を超えてしまっていて、流量スイッチのフロートに砂利が噛んでしまい、ポンプの自動停止が効かない状態になってしまいました。
ポンプ手前に砂濾し器を設けることも考えましたが、砂の量が多過ぎて今度は砂濾し器のメンテナンスに手が掛かる予見をしました。
打ち込み鉄管の中に入れたポンプ吸管のビニル管に網を巻いて対策しようとも考えましたが、今までに前例は無く、恐らく鉄管とビニル管との間に細かい砂がパンパンに詰まってしまい水量が減ってしまうばかりか、ビニル管も引き抜けなくなってしまう最悪の事態も考えられます。
色々考えてはみたものの、良い打開策が思い浮かばなかったので依頼主様に井戸のやり直しを提案させていただきました。
「目に見えない地下のことですから思い通りにいかないこともありますね」と、寛大なご理解を示して頂き、大変申し訳なかったのですが、追加費用が発生してしまう事にも快くご承諾下さいました。
打ち込んだ鉄管を全て抜き上げ、ビニル管に網を巻いたケーシングパイプに入れ替える工法に切り替えます。
遣り直しに先立って帯水層の集水部分のストレーナー制作から行いました。
公称径30のビニル管に適宜穴開け加工を施し、ステンレス製の網で60メッシュの二重巻きとし、延長は1.5m取りました。
大きな地震が起きて地盤が揺すれたときにも耐えるように耐衝撃性のビニルパイプを採用しています。
ビニル管が経年劣化して脆くなったときに割れてしまわないように、穴の開け過ぎずにも注意しました。
グッと強く曲げた時に簡単に折れない程度の強度は確保してあります。
網は目を細かくすれば細かい砂は止めれるようになりますが、網の目が抵抗になったり、細かい砂が網目に詰まったり膜を張ったりして水量を減らします。
砂の粒子が網目を通り抜けず、且つ水量も減らさない網目の選定にはいつも悩まされています。
砂地の帯水層は一般的に堆積物中の土粒子間を満たしている間隙水が少ないので、そもそも地下水は少なめです。
欲を言えばストレーナーはもっと長めに取って水量を確保したいところですが、上層と下層の悪い水を引き寄せてしまったのでは遣り直す意味が無くなってしまいますので、この長さで留めて置くことにしました。
先に打ち込んだ鉄管を全て抜き上げ、同じ穴に先端を開放した鉄管を9.5m打ち込みました。
その後、管内の土砂を排出させ井戸ケーシングとなる口径30のビニル管を挿入させました。
あとは鞘管である鉄管を引き抜くだけです。
と、ここまでは順調に事が進んでいました。
挿入したビニル管まで抜けてこないように慎重に鉄管を抜き上げていたのですが、作業の仕方が悪かったせいで最後の最後で鉄管とビニル管との隙間に砂利が噛んでしまい挿入したビニル管が計画深度より1mほど引き上がってしまうという失態を犯してしまいました…。
また最初から全てやり直しです…。
上手くいかない時にはとことん上手くいかないものです…。
唯一の救いは埋まったビニル管がすんなり抜けてくれたことです。
もし、入れたビニル管が抜けなくなってしまったら回収不能となり、また日を改めてストレーナーを作り直して、今度は井戸の位置まで変えてやり直しとなるところでした。
井戸掘りは何年やってても常に失敗が隣り合わせです。また一つ新たな経験が積めたので次回はもっと上手に施工したいと思います。
さて、ビニル管を抜いて、鞘管を打って、管内を掃除して、またビニル管を挿入して、鞘管を抜く一連の作業を繰り返しました。
鞘管を抜いている時には、中のビニル管の様子は全く見えなくなってしまいますので感覚と勘だけが頼りです。
2回目の失敗は無いように全集中して何とか計画通りの仕上がりに収める事が出来ました。
あとは、網に砂が目詰まりせずに水量が出てくれるか祈るばかりです。
こればかりは実際に汲んで見るまで分かりません。
今回選定させてもらった単相100V/400Wポンプの標準汲み上げ水量は毎分52Lですが、最高条件下のMAX水量がカタログ値で毎分110Lなので、毎分90L汲み上げできた今回の井戸は先ず先ずの合格ラインではないかと思います。
井戸ポンプの汲み上げ量は、井戸の湧水量や地下水位によって変動します。
溢れんばかりに水を張ったプールの水を汲んだ時が最大値と思っていただければ分かりやすいのではないでしょうか。
網巻きストレーナーにしたことでファインセンサーのフロートの砂利噛みも解消されましたし、200メッシュのディスクフィルターにも目立った目詰まりや底に溜まった砂も殆どありませんでした。
後々のメンテナンスが行えるように、井戸ケーシングの管頭はSUSのキャップ止めとしました。
井戸の深さや水位が知りたければ簡単に計測することができますし、網の目をくぐってしまった微細な砂が井戸底に堆積してストレーナーが埋まって水量が減ってきてしまったとしても、ここから井戸掃除も行えます。
口径:HI-VP30 完成深度:GL-9.2m 静水位:GL-1.50m
水量:少(推定90ℓ/min) 鉄分:反応無し 砂量:僅か
砂色:焦げ茶 水色:焦げ茶 水温:16.5℃ 外気温:23.5℃ 天候:晴れ
六曜:大安 海抜:5m
最初に施工した打ち込み鉄管で地下水を汲み上げる工法の長所は、地下水の水質を深さ毎にピンポイントで把握する事ができ、水量の確認もできます。
短所は鉄管に穴を開けているだけなので、今回のように砂が細かいと排出を止める事ができません。
鉄管に網を巻いて打ち込む事もしますが、堅い地層があると巻いた網が破れてしまうので完璧ではありません。
遣り直しをした網を巻いたビニル管を井戸とする工法は、砂を止める事だけに重点を置いていて、水質や水量は二の次で完成して地下水を汲み上げてみるまで結果は分かりません。
一か八かの大博打です。
それぞれ一長一短があり、今回は結果的に2パターンの施工をすることになりましたので、お互いの良いとこ取りが出来たので成功を収めることができましたが、単純に工事費は2倍となります。
浅井戸で水質や水量を探ることは技術的には可能ですが、手間がかかるため相応の費用もかかるということになります。
K様
この度はご依頼頂き、誠に有り難う御座いました。